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原始の夜1.洗濯機と島 [島で]

夕方ともなると、不安が忍び寄る趣がある、それが島だ。 何かと思うと、  

忍び寄るのは夜だ。不安は僕らの心の内にあるものだが、これは外側から

来る。夜の中に僕らはもう不安を感じなくなった。それが文明人だ。それが

僕らだからだ。  

島に来ると、初めに感じる言葉は「文明」だ。文明の反対語は、非文明だから

それは「自然」かもしれない。よりよく文明を感じるには、自然に出て行くこと

だろうか。そう考えられるが、実情は少しちがうようだ。なぜなら、僕らが自然に

出て行くのは、むしろ文明から遠ざかり、都会から隔絶して自然を堪能したい

からだ。このときに置いてきた文明のことは、思い出しもしない。キャンプや  

自然の険しい山岳や、広大な原野、海の他はなにもない海洋、ジャングル・

洞窟の秘境を楽しもうとする。

なのでそこに不安の答えがある。キャンプに行くのは、なにも文明と比較するために

自然に出るわけではない。自然を楽しもうとして、だ、ところが島へ来るのに、私用が

多いが、自然を楽しもうともしている。どこがちがうのか、それは島の家だからだ。  

島の家は自然ではない。わらぶき小屋ではない。テントでもない。家は家だが、

半文明なのだ。トイレが肥溜めだ。水洗ではない。それだけで、うちのは住むのを

嫌がるだろう。そもそも雨漏りがしている。昨年は、近年になく、雨で島に災害が

出て、崩れた道路の工事がまだ終わっていない。もう4ヵ月になるはずだ。  

つまり、この家がそもそもの半文明品なのだ。いつまでもつか、わからない。  

夜はなにかを代表しているごとく、深くやってくる。外の雑音がまったく聞こえない、

その都会ではありえない状況によって、家の中の音だけが聞こえる。そのために

外の無音が強調されている。僕は都会から来たので、それがまともに聞こえる。  

静かだ、というのはふつう、雑音・人の声がほとんど聞こえないことをいう。  

ここでは聞こえないことが存在を感じさせて、不気味なのだ。   

この半文明という、中途半端さが文明と比較させて、自然の不便さや夜という環境に  

不安の影を感じさせる。     

昼間は不安を感じさせなかったが、上が障子で、中がガラス、下が板の一枚のうすい

戸が、裏側で洗濯機の音をさせていた。いつもはこんなに近くで、洗濯機の音は  

聞こえない。他に音も聞こえないので、洗濯機だけが自分を主張しているようだった。  

「文明」だと思った。帰ったら、洗濯機のことなど忘れてしまうだろう。彼は島の家だから

こそ文明の象徴のような顔ができたのだ。洗濯は22分でスピードで終わった。手で

洗濯しても変わらなかっただろう。でも、それは今日の量が少なかったせいだ。   


心の不安からすれば、この手の不安はほんものではない。ゲームやDVDの映画でも

観れば、すぐに忘れてしまう。これがテーマになったのには、下地がある。着いた日の

夕方、プロパンのボンベが設置されていないのを見た。あ、ガスが出ない、忘れられた。  

農協(ガス屋)に電話してももう誰もいない時間。   

その晩は寒い晩だったそうだ。翌日、レンタカーの迎えの人がそう喋っていた。部屋が

冷えるというか、外にいるのと同じだと言えばいいか。小さな座布団用のヒーターが

あるだけで、それだけでも助かった。あまりに冷たく厳しいので、借りてきたDVDのTV

ドラマを4枚、集中して観ていた。半分寒さを忘れるために、パソコンのモニターを

動かずに見つめていた。座間の家では、2枚か、3枚が限度で飽きてしまう。1枚

残して、枕元に新聞紙をかぶせて、9時過ぎには寝てしまった。それほど寒かった。

そのときの部屋は空気が氷のように感じた。これがポイント。感じた時に、僕は気づかず

に、生命力を、または体の抵抗力を最大限にしたはずだ。自分でそれをコントロール

すると、そこで何かが起きる。「なにか」、それが僕ら人間の五感や、気のせいという勘を

超えた、感覚外の未知の感性に捉えられるものだ。だから、誰も知るはずもなく、言葉に

なったことはない。未知はわからないものとして、ある。なかったら、僕らは自分らに

備わったもので、すべてが知識となったはずだ。ところが、僕らは未知というものを、

そのまま知っている、知らないものとして。そして、通常は明日のことを意味していて、 

明日にならなければわからない、と。しかし、そうではない未確認の未知が常にある

のではないか。それが僕の仮説だ。僕の経験だ。


以下: 原始の夜 2.(次回に)

夜というものが自然とともにある時、それは太古の形をしている。それは人間の文明という

雑音がない状態だからだ。・・・・・・・・・







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