短話5つ [小話]
短話5つ
<失敗>
彼女について、説明が必要だった。と、書いてしまって失敗に
気がついた。説明できるほど彼女を知らなかった。
<怖い>
そんな気がしていた。この気持ちを伝えなければ、しかし、違う人が
出て、もう引っ越したと言う。阿奈矢(あなや)町にだ、と。きっちり
「あの世」町に聞こえていた。
<夢>
まさかりの金太郎が歩いていた。向こうから、着流しで金之助(夏目漱石、
本名)がせかせか歩いて来た。
「おう、金ちゃん」
「おう、これまた金ちゃん」
「饅頭、食うか」
「ありがたい」
まさかりの金太郎は、饅頭を食いながら、頬をふくらませて歩き去った。
金之助はまだ、せかせか先を急いでいた。どこへ向かっているのか。
―:目覚めると、しばらくしてから、良い夢を見たと思った。
<夢の果実>
鍵がかかっていた。箱の中はなんだろう。忘れてしまっていた。二階へ
上がると、窓から手を伸ばして、木の実をひとつもいだ。齧る。
けっこう、うまい。長籐椅子に坐り、足を伸ばすと、すぐに眠りに落ちた。
箱の中身は、夢で見られるはずだった。
とうとうと、あたたかい陽射しの下、寝てしまった。しばらくして起きると、なにを
夢見たか忘れてしまった。そればかりか、どうして夢の実を食べて寝たのか、
そのわけも忘れてしまった。夢の実、便利なのか、不便なのか、悩む。
<無感動>
うーん、と考えた、2秒ほど。
頭の側頭部、その皮膚の厚みが少し感じられた。小さく古いマーケットの壁に
囲まれた空間が、ちょっと振動したように感じた。計算した。間違ってはいない。
反応は気にしなかった。これ以上、考えるとヤバい、と。そこで考えを止めて
しゃべった。「あの、これ釣銭少ないみたい」
見上げる女と目と目が合った。無感動。
数えている。少ないのは50円だ。一枚コインを渡される。無言かよ!
全然、無感動。どこにでもあるね、こういう古いレジ。
<かき玉>
仮縫いの 絹に違いし 班目の
(「か」りぬいの 「き」ぬに「た」がいし 「ま」だらめの =「かきたま」)
<失敗>
彼女について、説明が必要だった。と、書いてしまって失敗に
気がついた。説明できるほど彼女を知らなかった。
<怖い>
そんな気がしていた。この気持ちを伝えなければ、しかし、違う人が
出て、もう引っ越したと言う。阿奈矢(あなや)町にだ、と。きっちり
「あの世」町に聞こえていた。
<夢>
まさかりの金太郎が歩いていた。向こうから、着流しで金之助(夏目漱石、
本名)がせかせか歩いて来た。
「おう、金ちゃん」
「おう、これまた金ちゃん」
「饅頭、食うか」
「ありがたい」
まさかりの金太郎は、饅頭を食いながら、頬をふくらませて歩き去った。
金之助はまだ、せかせか先を急いでいた。どこへ向かっているのか。
―:目覚めると、しばらくしてから、良い夢を見たと思った。
<夢の果実>
鍵がかかっていた。箱の中はなんだろう。忘れてしまっていた。二階へ
上がると、窓から手を伸ばして、木の実をひとつもいだ。齧る。
けっこう、うまい。長籐椅子に坐り、足を伸ばすと、すぐに眠りに落ちた。
箱の中身は、夢で見られるはずだった。
とうとうと、あたたかい陽射しの下、寝てしまった。しばらくして起きると、なにを
夢見たか忘れてしまった。そればかりか、どうして夢の実を食べて寝たのか、
そのわけも忘れてしまった。夢の実、便利なのか、不便なのか、悩む。
<無感動>
うーん、と考えた、2秒ほど。
頭の側頭部、その皮膚の厚みが少し感じられた。小さく古いマーケットの壁に
囲まれた空間が、ちょっと振動したように感じた。計算した。間違ってはいない。
反応は気にしなかった。これ以上、考えるとヤバい、と。そこで考えを止めて
しゃべった。「あの、これ釣銭少ないみたい」
見上げる女と目と目が合った。無感動。
数えている。少ないのは50円だ。一枚コインを渡される。無言かよ!
全然、無感動。どこにでもあるね、こういう古いレジ。
<かき玉>
仮縫いの 絹に違いし 班目の
(「か」りぬいの 「き」ぬに「た」がいし 「ま」だらめの =「かきたま」)