SSブログ

ナンガを追う 1. [山岳]

ラインホルト・メスナー    鉄人であり、哲人。むしろ、 

超人と呼ぶべきか。 世界には山岳の最高峰はエベレスト、または 

チョモランマ(中国政府によるチベット名)で標高は8、848mと 

される。世界の屋根にはチョモランマの他に17峰、全部で18峰の 

8,000級の山岳しかなく、これをすべて頂上制覇した人類最初の 

男がメスナーだ。 

と、言うのは簡単だが、僕は言いながらため息が出る。僕らは 

8,000mという世界がどういうところか知らないから。僕は山岳 

の経験から、それを拡幅して実感を比例させて、想像することが 

できる。想像するだけでも、死なないのが不思議なくらいだ。 

少しもオーバーな言い方をしていない。それが事実であるから 

それがどれくらいケタ外れなことか、明かしてくれる。  

少し、肩を落として、深呼吸する。 

探していた本を見つけた。「ナンガ・パルバート単独行」である。 

メスナーが書いた本はいろいろだが、この本は珍しく内省的に 

書かれている、唯一の著作だ。 瞑想しているのである。 

この本にだけメスナーの数ある本から最初に出会えたこと、 

それが唯一の本であったことに感慨を禁じ得ない。その時に 

は非常に興味深く読んだ。 

このように書いた本がメスナーに他にはないことに不思議な 

感を覚えた。因縁があった。この山でメスナーは弟を亡くして 

いた。一緒に登ったが、最後のアタックで天候の悪化予報の 

ため一人で登頂を目指したが、弟が自己判断でついてきて 

しまった。一人分のザイルしかなく、登頂はしたが、弟が 

消耗が激しく同じ壁を 降りることはできなかった。 

壁の途中で厳寒の中一泊しなければならない。そして、行き 

の壁を諦め、比較的楽な裏側の壁のルートを選択したが、 

メスナー最後には弟を見失い、自身も倒れ、凍傷になり、 

動けなくなったところを地元の人にかつがれて助けられ、 

通りかかったパキスタンの兵士のジープで帰還できた。 

本国に帰ってから、凍傷した足の指6本を切断した。そして、 

この後17年をかけて8、000m峰18峰の制覇に乗り出す 

のである。 

このナンガの本は完全にひとりでナンガに成功した最初の 

記録である。それも直前にエベレストを無酸素登頂を成功 

させた、そのすぐ後に登っている。 


僕が追うのは、この本の記録だ。メスナーを兄弟ほどにも 

感じた、その内省の記録だ。 

目次の後に5行の言葉が全1頁に::

「思わぬときに心の中からほとばしり出る孤独感には

きみを殺してしまうほどの力がある。 

だが、うまく役立てることを心得ていれば 

今見える地平線のはるか彼方まで 

きみを運びあげてくれる力がある  」  

この言葉は自然とお互いに共闘する人間のための言葉 

なのだったと、改めて思う。僕は自分の内省を一般的に 

感じて、一般的に使ってきたが、ここに書かれていようとは 

思わなかった。読んだのは恐らく40年近く前だったから。 

「ナンガ」という最初の章の見出しにも8行の言葉が載って 

いる::

「サーブが自分を駄目にしてしまうのは

なにもかも知ろうとしながら、何ひとつ見ていないからだ。

サーブは技術しか信頼しない。

サーブはどこでも、いつでも分類したがる。 

サーブは孤独を恐れて集団をつくるが、

かえってその中で孤立してしまう。 

サーブは死を黙殺しようとして、絶えず考え、考え、 

考えてばかりいる・・・・・・。  

      パンポチェ出身のシェルパ ダワ・テンジン  」 

この言葉にも最近のブログ記事と重なるので驚く。 

ことは柳宗悦が「蒐集物語」で述べていたのを端的に 

現わしただけで、どうも死の危険と隣り合わせの、なんに 

してもエベレストの死者の40%は登山者に随行する 

シェルパというからどれだけ危険かわかる、そういう人 

たちは同じ真実を見るようだ。考えるな、まず見るんだ、と。 


<一人の男と一つの山>::

「切り立った岩の段を攀じ登って上に出る。息を切らせながら、 

もう後には退けないことに気づく。体はまるで萎えたようだ。 

テントの中は寒いのに汗をかいている。顔のすぐ上にある 

薄いテント地に霜がついている。ぼくは何かどなるのだが、 

その声は聞こえない。ぼくは自分をとらえたこの恐怖感を、  

膚で感じとっている。不安のあまり叫び出したかった。

 半ばうとうとしながら、前もって考えた登攀動作をあらかじめ 

心の中で思い描いてみようとした瞬間、突然自分が孤独で 

あることに気がついた。腹の筋肉が不安のあまり引きつる 

ほどの孤独を感じたのだ。 」  

彼がいるのは岩の壁の途中である。ちょうどサナギのように 

テントにくるまれるように、ぶる下がっていて、夜の中で氷結 

と闘う。両腕、両足を星を眺めながら、マッサージする。  ::  


「自分を取り戻そうとする必死のあがきが、体内を渦巻いた。 

どうしてこのようなパニックに襲われたか説明はつかなかった 

が、この恐怖状態はまだまだ続いた。これは、そこにいるという 

恐ろしさ、これから先もやらなければならないという恐ろしさ、 

そもそも人間であるという恐ろしさだったのだ。僕の体を萎え 

させたのは、墜落を恐れる気持ちではなかった。自分自身が 

この孤独の中で失われてしまうのではないかという恐ろしさ 

だったのである。  」  

これは1973年に1日張り付いた壁を途中であきらめて、翌日、 

ベースキャンプに戻る時のことであるが、突然の孤独に対し 

ての独白が綴られている。エベレストとナンガに向かう5年前 

のことである。



* このレポートは僕が気に入っている個所まで書いたら 

終わりにしようと考えているが、今、改めてこれに挑戦する 

意味が感じられる。その意味を思うと、僕がそれに納得を 

図れるようなことが起きたら、そこで止めてしまう可能性も 

ある。どのみち出たとこ勝負だ。

nice!(12)  コメント(0) 

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。