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上弦に輝くもの [月齢]

自由に羽ばたく、とか旅に出るぞ、

とか言う時は不意に起こる。

なにかいいことがあったり、そんな

ことを考えていて、それが突然

ストップして外を、夜を歩きたく

なる。それはこれまで普通だった

習慣だが、最近はなかったこと。

今夜はTVの録画を観るのに飽きて

ふとそれが起こった。

夜も、深夜も関係なかった。外へ

出るのだ。

そして、寒い中、上弦の月が西に

大きく傾いて輝いているのを見た。

とても明るい。見れば、空には

いくつもの雲が浮かんでいた。

ちょうど海面に綿がいくつも浮か

んでいるようで、それがいつもと

違うのは、丸っぽくて、千切れて

いることだ。なので、雲の隙間が

多く、そこから海面が見えるかの

ように暗い夜の青さを写し出す。

こんな雲の群れは初めてだ、そう

思った。

見ているうちにそれが月の輝きに

照らされ、集まってきているか

のようで、とても美しいのに気づ

いた。空は雲で狭かったが、その

模様はほんわかして、いい絵を

こしらえていた。

月はちょうど周囲の雲が切れていて、

鳥のような形の雲に入っていた。

その下には細い雲が虹のような楕円

形でまるで太鼓橋の欄干のようだった。



月が鳥の形の雲から外れ始めると、

雲は首のない鳥が羽を広げている

ようだった。橋の欄干の雲は奇跡的

にその細い形のまま崩れずに、月

とは反対のほうへ流れていた。

踏みしめる駐車場の土は寒さで

固まって、霜が降りたような音を

立てた。



いつもと変わらない夜がそこにあっ

た。大きく、日本列島が凝縮する

かのように遠くまで夜が触手を

伸ばしているのがわかった。

心がそこまで浸透するのが感じられ、

僕はそこに自然を見た。内省で見る

自然というものだった。

自然がひとつの表情を見せてくれて

いた。

これが偶然なら、僕らはなんと間抜け

だろうとわかるくらいに、そこから

来るものがあった。いつもよく来て

いたもので、まるで僕にささやき

かけるかのような存在だった。

信州のほうから来ているのだろうと、

勝手な想像が湧いた。それがどういう

ことなのかを問わない、安心した

ものに取り囲まれている感じがした。



この透徹しながらも柔らかいもの。

真剣に向き合うと、感謝したくなる

もの。この夜の一帯にそれが忍び

寄っていた。それで僕はそれに

誘われたという考えを思い、感じを

持つのだった。



君よ やよ  忘れるな 

今宵の 上弦の 月を 



よく輝く月だった。
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