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熱海へ [建築]

熱海の旧日向邸の見学に行った時の

印象を書く。

なぜ旧日向邸かというのは、もともと

実業家の日向利兵衛の別宅だったのが、

死後は別の人に買われたが、使いづらい

と言うので今度は企業に渡り、と持ち主

が代わった所為だ。

最後に売りに出された時には取り壊しの

話も出た。それを聞いた女性の篤志家

が熱海市に買い取りを依頼したのだが、

熱海市はちょうどその前に起雲閣を購入

したばかりだったので資金がなかった。

そこでその女性篤志家が資金を出して

熱海市の購入となったのが、旧日向邸

だった。もう少しでブルーノ・タウト

の唯一と言える、地下部分だが、設計

建築が亡くなる処だった。



もとより期待があったわけではなかった。

昨日の雨から明けて、晴れ。いつものこと

にいつもの晴れで出発すると、もう忘れ

てしまった。途中に交番があったので

時間も余裕があって、一応旧日向邸の

場所を尋ねてみた。地図で見てきた

とおりにすぐ近くだった。

きつい坂道を登って着くと、案内板が

あってその階段下が邸だった。

石の階段には若い外人のカップルが

坐っていた。同じく見に来たのだろう、

まだ時間があるので待っているのだろう、

と思ったが、後で知ったが、彼らは

見終えて少し休憩していただけだった。



この旧日向邸そのものは二階建ての木造

で、渡辺仁という人の設計によるもの

である。ここには崖に建っているので、

コンクリートで土台を築いたらしい。

そこが地下室になり、その設計がブルーノ

の手になるものだった。

12旧日向邸0-1.jpg
旧日向邸:俯瞰


完成は昭和11年だったが、80年も経つと、

雨漏りもしていつ崩れるかとなり、補修・

耐震工事が行われた。それが終わって

2022年、昨年から一般公開を始めた。

去年はコロナ下だったから、訪れる人も

なかったろう。予約で一日2回、一回で

10人取るが、僕の時は13:00からで

朝日新聞の取材記者を含めても4人しか

居なかった。

階段を降りると、

旧日向邸1-1.jpg
旧日向邸21-1.jpg

中に入ろう。

旧日向邸2-1.jpg

渡辺仁の設計になる、居間。下は木の床

だった。開放の茶室の雰囲気。

日向利兵衛の奥さんの部屋が二階にある。

旧日向邸3-1.jpg

昔の桐の箪笥。昭和の頃の一般的な

品だろう。僕の子供の頃にも家に

あった。主人の部屋は隣でベッドが

木の枠が残っていた。

旧日向邸4-1.jpg
風呂場:

どういう趣味だったのか、浅すぎる。

仰向けに寝て入ったのだろうと。

横の坐って入れる上のほうの壁に小さな

穴があり、そこからお湯が流れ込んだ

らしい。あまり快適そうではない。

ここの天井だと思ったが、屋形船の

形で竹細工だった。

旧日向邸5-1.jpg

いよいよ地下に入る。

旧日向邸8-1.jpg

竹で作った手すりだが、丈夫。ここはすぐに

ダンスホールとして設計している。入ると、

すぐにドイツ人らしい、と感じた。なんとなく。

旧日向邸9-1.jpg

ここが三間続きのブルーノ・タウトの設計

で重要文化財。次に見える間が洋間。一番

奥が日本間。

このダンスホールは凝っている。東では

この宮大工と言われる佐々木嘉平が作り

上げた。ふつう3か月で作れるらしいが、

思った通りにやってくれ、金も時間も

厭わないと言われて1年をかけて完成さ

せた。

地下室とは言っても、この上は地上の庭

になるのだが、タウトはコンクリートを

ぶち抜いて外光をふんだんに取り入れた。

奥のコンクリもぶち抜いたが、崖なので

傾斜があり、そこは階段にした。

まず左手に御簾のような戸があるが、

萩?だったか、その一本の枝で編まれ

ている。半分に切ったので太いほうと

先の細いほうを互い違いに組み、交互

のバランスを。

旧日向邸11-1.jpg

こんな感じ:

ああそうか、ではない。これは立派な

工芸品で何枚か使われているが、一枚で

高級自動車が買えるらしい。300万?

どうもここの御簾戸だけで1000万から

はするらしい。ふ~ん。

旧日向邸12-1.jpg

ダンスルームのタウトの椅子:

12脚くらいあったか。以前は坐っても

よかったが、今は坐り禁止に。

あとは電球だろう。波打つように

高さが揃えられている。

驚くのは、鎖のようなもので下がって

いるのだが、当然金属だと思ってい

たが、竹を8の字になるまで曲げて、

それをつないでいる。ともかく、

こんな処までという箇所にまで

とことんこだわっている。時間が

かかるはずだ。その竹の選定だけで

何千本になったらしい。

次の間、洋間に行こう。

旧日向邸13-1.jpg

赤を基調にしている。崖の段差で窮屈さ

がある。しかたないかな。

奥の日本間が隣。

旧日向邸15-1.jpg

畳が互い違いになる箇所がなく、すべて

横一列にされていて、タウトの指示だと

いう。海を眺める絶景だ。

旧日向邸14-1.jpg

洋間から日本間を観る。

旧日向邸16-1.jpg

日本間:

旧日向邸17-1.jpg

隣りは書斎風の小さな日本間:

旧日向邸18-1.jpg

洋間と日本間との間にある格子であるが、

まっすぐに等間隔を保っている。90年

近くもそれを保っているのは尋常では

ない。佐々木嘉平の全力投球だろう。

案内人の後藤さんの話では正倉院にも

あるらしいが、それには横に一本筋交い

が入れられて、狂いを防いでいるらしい。

なので、それを超えている、と

おっしゃってた。

材は檜を使っている。今は檜は高級で

なかなか使えないが、ここは竹以外は

ふんだんに檜を使っている。

洋間だと思うが、季節には月光が海に

輝いて光の線ができる。が、それだけ

ではなく、洋間の床にまで光が入って

くるそうだ。なんとも幻想的な写真

を見せてもらった。


この別荘は人が手放すがごとく、

使い勝手がいいほうではない。

使いにくい。日本人にダンスパーティ

をする文化・習慣がないので余計

だろう。ただ床といい、壁といい、

その工芸の価値には一目置く。

職人のこだわりに感激する。



上に戻って、庭に出る。

旧日向邸19-1.jpg

京都の石庭のパロディ:

下が砂ではないだけ。

旧日向邸20-1.jpg

庭から上屋を眺める。後ろに軒のよう

なものが張り出しているが、これは

東京オリンピックのドーム建築をした

隈研吾の設計になるガラス建築の

ホテル。4部屋しかないそうだ。

1泊20万円だそうで、誰が泊まるのか、

そういう客層がいるのだ。



ブルーノ・タウトのことは読む本が

多いのでこの先に書けるかどうか、

わからない。書くためには桂離宮

なども見学したくなるだろう。

いつのことか。
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