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そこにないものに入って [詩]

僕らは特別な時間に、入ってゆく。

時間は、ない。

だから、僕らはないものに入ろうとしているのを、

無意識に感じている。 

単調に くり返すメロディのように 

民意の 歴史に  誘われて

僕らは そこに なにがあるか 

知らない。 

それを 不思議に思わないほど  そこに

あるものを  心に 置いている。  

立ち上がると  血流がめぐるように  

もう  感動がある、  静かな 前提。 

空気が  うすくなってゆく、  

ゆっくり 呼吸をしなければ   苦しくなるくらい、

気圧が  低くなったのも  感じている。

もう 台所は  極寒に達したようだ。  

食器棚から  つららが 下がっている、

靴下が 床に張り付いて  そこから

破れてしまう。  防寒の靴に  履き替えねば、・・

お湯を  沸かそう。  

もう 1時間待っているが、  お湯は  まだ、 

そうだ  気圧が低かったんだ、 気づく。

その間も  凍らないように  歩いている。

4時間、  お湯が沸いてきた、  すぐに 

タオルを出して  お湯で溶かして、 

またお湯を 足して  今度は  防寒服を 

マッサージする、  凍りつかないために。  

湯たんぽを つくろう、  今夜、眠るために。



夜中に  凍死しない準備は  手が かじかむ 

ここには  なにが あるのだろう?  

高度8,000m で   建築不能の

山小屋に いるのは   不思議な 感覚。 

スリーピングバックは  空気の厚みを  

製造するようだ   隙間風も  通さず、

外気を  透徹する。  

数千の  見えないつららが  山小屋を  

通過して   どこかに  運ばれるよう。

聴こえてくるのは  沈黙の  音、 

シンシンと  染み込むように  刺してくる、 

長い  回廊を 想像させるが、 それは 

谷底に  落ちてしまう。  

その 聴こえるはずのない、 落ちてゆき、 

落ち続ける  無機質の  音、  

心という  防波堤が  感じられない、 

透明に  染み込む、   黒い 耳 ・・。

眠る、   ・・ 眠る、   よく、 ・・・、

12時間も      眠、 ・・る、  

破壊や   陥没、 

落差や   黄砂、  

倒壊や   沈下、  

鳥居や   敷石、 

奥深き や   むくつけき、 

これほど  よく  眠ったことが 

あっただろうか? 

瞬間の  ブリザードで  

僕は  凍ってしまうだろう、  

一瞬でいい  待つのは。  

朝が来れば  もう 安心だろう、  

眼を 開ければいい  キラキラっと  

岩肌に  氷箔が かかって  

輝くだろう。  




僕らは特別な時間に、入ってゆく。

時間は、ない。

だから、僕らはないものに入ろうとしているのを、

無意識に感じている。

氷結には  音色が  見える、  

静かさには   無風の 声がする。  

豊かさを  辿ろうとして、   

突然、

すべてが  閉じてしまう。  

あるものが   ないものへ  

すべてのものが   ひとつのブナの実へ  

見えない  命、  

茶色の 殻という  艶、  

そこに  憩える  白いシャツが  

あるだろうか?  

雪山へ  入る道を  飛んでゆくだろうか?  

誘われる  郷愁の その日を  

思い出すだろうか?  

その中に  あるもの、 ・・  

ひと雫の中に  広角の世界が  あるとしたら、  

凍死した  僕の姿も  

見ることが できるだろうか?  


これは  すべて  想像なの、  

だろう か?
 

階律と ともに  二人で歩む、  

君と 僕の  幻想の会話、  

ホールで  拍手する  聴衆は  

何を  見ているのだろう?  

やがて  畳まれた 光の帯が 

立ち上がるように  昇ってくる。  

胸に 差し込む  あたたかさで  

僕は  迎える。  

カタロ  ホーニャ、 

ラムリ  ペシレラント、  

サラマ  キターランテ、  

ク ク、  ストーパ リアランテ。  


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